読んだ

破船 (新潮文庫)

破船 (新潮文庫)

変に情感的にならない抑制された筆致が持ち味の吉村昭だが、逆に読者にとっては自分の中での解釈しシンクロする余地が大きく、それ故に時にはすさまじい破壊力をもって読者を打ちのめすことがある。
本作もその例に漏れず、主人公にシンクロしすぎて後々つらい展開に直面することになった。終盤の悲惨な展開と、そうした災厄の猛威も含めて「自然」の前にただただ翻弄されるしかない主人公や他の村人たちの無念さ、絶望感、虚無感が何倍にもなって自分の心に突き刺さってくるのは結構こたえるものである。『羆嵐』も自然の猛威を前に為す術もない人間の無力さを描いていたが、それ以上に救いのない結末。ただただ悲しい。



吉村昭が死去したニュースを2ちゃんで見て以降*1追悼の意味を込めて読み始め、今回で6冊目。個人的には『漂流』が好きだなあ。

*1:代表作で『羆嵐』が紹介されたためクマーAAスレに